第九章:消えゆくもの(3-2)

突然背後で声がして思わず飛び上がりそうになった。
まさか!羽鳥翼?!とっさに後ろを振り向く。
「こんな夜更けに外に出て…風邪を引くよ?」
その言葉に僕は思わずため息を付いてしまった。
「イネ=ノ…おかえり」
「ああ…それより、どうしたんだい?」
イネ=ノが不思議そうな表情を作っている。
夜中に一人ベランダで大声を出していたら誰だっていろいろな意味で心配するだろう。
「…大丈夫だよ。…ただ少し疲れてるみたいで…興奮して眠れないんだ」
「なるほど。じゃあ、リラックスできる温かい飲み物でも入れてあげようか?」
イネ=ノがアキレスを呼ぼうとする仕草をしたので僕は慌ててそれを止めた。
「待って…その…それよりイネ=ノ、君とゆっくり話がしたいんだけど」
そっとイネ=ノの腕を軽くつかんで見せる。
少し黙った後イネ=ノはゆっくりと分かったといって頷いて見せた。
二人して庭に出る。もちろん今度はちゃんと靴を履いて。
満天の星空が照明代わりになっていて屋外も意外と明るい。
ランプの光も星に数えられるくらい、天井の星の光も強い光度を持っていた。
庭の中に小さな小川が流れていてきらきらと光の道を作っている。
イネ=ノから借りたコートを肩に引っ掛け二人してゆっくりその川に沿って歩いた。
やがてガラスのベンチが現われたのでそこに二人腰を下ろし天井の星空を見上げた。
天の川のようなものも見えるが全体的に星が空いっぱいに広がっていて今にも星が零れ落ちてきそうなほど美しかった。
少し風が冷たい。
「竹人の世界でも星はこんな風に輝いているのかい?」
見るとイネ=ノはなんとも切なそうな横顔で星空を仰いでいた。
「うん。ここまで綺麗じゃないけど、僕の住んでいるところでも明るい星なら見えるよ。
オリオン座とか」
「え?」
イネ=ノが聞き返す。
「オリオン座って…こっちにもあるのかな?すごく綺麗な形をした星座で…」
と、突然両肩をつかまれる。
気がつくとイネ=ノの真っ直ぐな瞳が僕のすぐ目の前にあった。
アメジストの宝石のように美しい紫色の瞳の中に僕の驚いた表情が映っている。
「………え…」
思わず固まってしまう。
「竹人、…君は…」
イネ=ノは言う。
「君は一体何者なんだ?」

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