「イネ=ノ様から聞いていないのですか?」
アキレスは慌てて逆に僕に聞き返した。
「…うん…ここの他にもたくさんの宮殿や神様がいるって話はちらっと聞いたけど…
十二星座っていうのは初耳だよ。それって黄道星座のことだよね?」
黄道星座とは太陽の通り道にそって出る星座のことで占いなんかでもおなじみのあの十二の星座のことだ。
「アポロン様より力を与えられた、銀河の中でも特に力の強い十二星座の神々のことです。
総称して十二星座守護神と呼ばれております。
その十二星座守護神が円を囲むようにして結界を作り、銀河の崩壊を防いでいるのです」
「え?崩壊?」
「星と星の間は闇です。
普段はそれで秩序が保たれていられるのですがそれが大きくなりすぎると光や星を吸い込む巨大な穴になってしまうのです」
ブラックホールのことだろうか。
「もし十二星座の結界が壊れたりしたら…。」
なるほど…一つでもかけると結界がなくなるということか…。ん?まてよ…
「なぜキク=カがいなくなるの?イネ=ノが治療してくれてるんじゃないの?」
「え?…それは…」
言葉を詰まらせアキレスは下を俯いてしまった。
本気を出せば死人を生き返らせる力を持つイネ=ノにも治せないような病気なのだろうか?
「ねぇ…キク=カの病気ってなんなの?かなり重そうにみえたけれど…」
「…心が壊れ消滅する病です」
「え?」
“心が壊れる”という表現については以前イネ=ノから話を聞いている。
肉体が壊れるというのと同じ意味だ。だが…
「消滅って…つまり…それが死ぬってことなの?」
「心の機能が完全に停止します。消滅したも同然です。
ただ体だけは残っています。
ですから…そうですね、死ぬと言っても心だけが死んで体は生きているような状態になるでしょうか?」
「それは…脳死?」
つまり植物状態ということだろうか?
「でも…イネ=ノなら治せるんでしょ?」
「いえ…ですから…それは、なんとも難しい病でして…」
なんだかアキレスの歯切れが悪い。イネ=ノが言っていた。
キク=カは人を殺して大神の怒りに触れた。
それが病気の原因と考えるのなら間違いなく命を落とすような病気なのだろうか…。
そうか…キク=カが病魔に冒されて行くのをイネ=ノはみているしかないんだ…。
だから僕がキク=カの話題を振ったときあんなに辛そうにしていたんだ…。
「じゃあ…もしキク=カの“心”が完全に崩壊したら、その結界はどうなるの?」
「ええ…ですからそれが解らなくてとても不安なのです。
完全にキク=カ様がいらっしゃらなくなったというわけでないにせよやはり意思があるのとないのとでは全然違います。
ああ…申し訳ありません。このようなお話をしてしまい…」
アキレスは席を立ち上がるとわざとらしく片づけを始めた。
「うさぎ」
「え?」
アキレスの手が止まる。
「うさぎって今回のことと何か関係あるの?」
「………」
「たしか…うさぎ座って星座があったよね。
うろ覚えだけど、うん。あったあった。
それとキク=カが何か関係してるの?」
「あ…いえ。」
アキレスの一度止まった手が再度動き出す。
「余計なご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
この事はどうか内密に…。
できればイネ=ノ様にも伏せておいて頂きたいのです。
ちょっとした愚痴だと思って聞き流してくだされば嬉しいです」
食器などをすべてトレーに乗せるとアキレスはお辞儀をしてそそくさと部屋を出てってしまった。
自分から話を振っておいて…。
とうに冷め切った紅茶のティーカップに一口くちをつけて僕はため息をついて見せた。また謎が一つ増えてしまった…。