第九章:消えゆくもの(1ー3)

「大丈夫かい?顔色があまり良くないようだけれど…」
「え?」
転寝して悪夢をみていた?…悪夢…
「もう終わったよ。帰ろう」
顔を上げるとキク=カは先ほどのベッドに横たわったままどうやら眠っているようだった。
寝顔まで弟そっくりだ。ゆっくりと立ち上がるとバイオリンケースを肩に引っ掛けキク=カの宮殿を後にした。
帰り道、静かな星空が浮かぶ中、僕はぽつりぽつりと明人の話をはじめた。
「何度も生死の境をさまよっているところを目の当たりにして、子供のころから弟の死を覚悟した瞬間が何度もある…。
無知だったからちょっとでも弟が発作を起こすとこれで死んでしまうのかも、と大げさに思ってしまったところもあったけれど…。
最近になって少しだけ症状も落ち着いてきて安心していたんだけどキク=カに会ったとき、思わず昔の事を思い出してつい動揺して…。」
イネ=ノは黙って話を聞いてくれていた。
「ただ、僕のあんな姿を見せてしまいキク=カには本当に申し訳なかったと思う…」
「それは心配しなくていいよ。キク=カのことだ。
それぐらい分かっていたと思う。だから大丈夫だよ」
歩く僕の肩に手を置いて見せた。
「あの…あそこでは聞けなかったんだけど…キク=カは何の病気なの?」
肩に乗った手がするりと外される。
「神様でも病気になるんだね」
するとイネ=ノは突然歩を進める足を止めた。
「イネ=ノ?」
数秒黙り込んだ後ゆっくりとイネ=ノは口を開いた。
「人を殺したんだ」
「え?」

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