第八章:再開(2ー2)

思わず驚き後ろに一歩下がる。
深い紅色のうさぎの瞳が僕を捕らえた。
「こちらは?」
うさぎはイネ=ノに僕を見ながら問う。
「新しい助手だよ。まだいろいろと慣れなくてね。さぁ、行こう、サクラ」
そういいながらイネ=ノは僕に手を差し出して見せた。
サクラとは…ああ…さっきこの顔をみて僕が“桜倉先輩”って言ったのを覚えていてそれを使ったんだ。
ここで僕にサクラという仮名が出来た。
うさぎが扉を開ける。
ギシシシ…と木のきしむ音がしながらゆっくりと扉は開かれていく。
突如お香のような香りに包まれた。
アジアン雑貨店に入るとするあの香りだ。
中はさらに回廊が続いていて薄暗かった。
木造の動物や花などの置物がたくさん壁沿いに並べられている。
窓には重そうな紺色のカーテンが掛かっていて外は見えない。
ろうそくの明かりが規則正しい間隔を保ちながらゆらゆらと揺れていた。
なんだろう…イネ=ノの宮殿とはずいぶんと印象が異なる。
イネ=ノの宮殿がヨーロッパだとしたらこちらはアジアンチック、それもかなり日本に近い作りだ。
どことなく懐かしさを覚える。
その薄暗い回廊はさらに真っ直ぐ宮殿の奥へとつながっていた。
後ろで今僕らが入った扉が音を立てて閉められたがうさぎは付いてこない。
あれが門番なのだろうか?
「ここはキク=カの部屋へ続く、直通の回廊と行ったところかな?たぶんここを利用するのは僕ぐらいなものだよ。
それと、君の名前はサクラって事にしておこう。
もちろんキク=カの前では本名を名乗っていもいいが他の者の前では君は申し訳ないが僕の助手と言うことにしておくよ。
その衣装も看護者のものなんだ。」
「うん、分かったよ」
僕はにこりと微笑んで見せた。
ずいぶんと歩いたような気がする。
やっとのことでその扉の前に立ったときには少し息が荒くなっていた。
正方形の木の板のような扉だった。
壁にベニヤ板を貼り付けたようなシンプルさに先ほどのうさぎの扉とのギャップを感じる。
イネ=ノがその板に手を当てた。
突如周りが白く光ったかと思うと気がついたときにはすでに部屋の中にいた。
そこで僕は息を飲んだ。
病院臭い。
それが第一印象だった。薬やアルコールのようなにおいが部屋いっぱいに充満していたのだ。
少し息が詰まる。部屋は廊下と同じか、それよりも少し暗かった。近くのイネ=ノの顔がやっと分かるくらいだ。
ところどころに申し訳程度に小さなろうそくが置いてありかすかな光を放っている。
部屋が広いというのはなんとなく感覚で分かったが暗すぎてそれを確認する事はできない。
「やぁ、気分はどうだい?」
イネ=ノが声を投げかけた先に大きなベッドのようなものがあった。
「すこし明るくするよ?」
イネ=ノが片手を空へ上げると突如部屋がふわりと明るくなった。
光の玉だ。イネ=ノの部屋にあった光の玉がふわりと宙を舞い部屋を照らし出した。
そこでやっと部屋の様子を確認することが出来た。
天蓋のようなカーテンが天井からぶら下がっているがそこから無数の管がながれ、ベッドの上に横たわる人物に続いていた。
医療器具のようなものは見当たらないがまるで集中治療室のような印象を受けた。
カーテンに隠れて横たわっている人物の顔が良く見えない。
『イネ=ノ、遅かったじゃないか』
声がした。しかし、不思議だ、なんと言ったらいいのだろう。
耳からというよりも頭に直接入ってくる声だ。
『君が竹人君だね。ようこそ。』
「さぁ、竹人。こちらへ」
そう言ってイネ=ノはベットの脇に僕を案内した。
部屋全体はイネ=ノの光の玉で明るくなったがベッド中央は天蓋のカーテンや管で陰になっていて依然薄暗い。
「はじめまして、射川竹人です」
頭を軽く下げて挨拶するとキク=カの顔を見ようとそっと顔を上げてみせた。
真っ白で細い腕や手首にはたくさんの点滴のような管が繋がれていて天井に伸び、やせこけた体は子供のように小さい。
髪は暗いえんじ色、それよりも少し濃い紅色の瞳が僕を捉えていた。
「!えっ?!」
心臓が止まるかと思った。だがしかし…叫ばずにいられなかった。
「明人っ!!」

作成日時
カテゴリ
タグ