風の中にいた。
とても強く、目を開けることすら出来ない轟音とともに渦巻く風の中だった。
イネ=ノの部屋に移動したときのような瞬間移動ではなく、竜巻の中心をトンネルにして進んでいくような感覚だった。
息が出来ないくらいだ。一体いつまで続くんだろうと、突如音がぴたりとやみ、はっとして顔を上げた。
一面闇に覆われていた。
なんだ?ここ…冷たい、凛とした秋の風のにおいがする。
辺りを見回すが真っ暗で何も見つけることが出来ない。
「イネ=ノ?」
怖くなってつかんでいたイネ=ノの手を強く握り締めた。
「大丈夫。ほら…、よくみてごらん」
そう言われ目を凝らして天井を仰ぐ。
すると、少しずつだが目が慣れてくる。
空にぽつぽつ、と小さな星の明かりが灯り始めたのだ。
どこか遠くで、かすかではあるが鈴虫のような鳴き声が聞こえる。
風が吹いた。周りで木々がざわめく音が聞こえた。
やがてさらに目が慣れるとそこが竹林である事に気がつく。
ふわりと光が生まれた。イネ=ノの指輪が光り、ランプの代わりを果たした。
すると、僕らが立っているところから少しはなれたところに鳥居のような物が連なっているのが見える。
「ここを渡ったところが蠍座の宮殿だよ」
そういいながらそっと僕の手を引いて前を歩き出した。
渡る?下を見るとそこには川が流れていた。
それもただの川ではない。水の中に光の粒がたくさんキラキラと輝いているのだ。
「天の川…?」
ぽつりとつぶやいた。
これは天の川なんだろうか?
星や天体にはあまり詳しくないからよくわからないがもしかしたら射手座と蠍座の間に天の川があるのかもしれない。
ああ…そういえば何かの雑誌で読んだことがある。
射手座方向が銀河系の中心だって。
って事は射手座の周辺に天の川が見えるはずだから僕の考えは合っているのかもしれない。
歩いて渡るんだ…汽車だったらもっと面白かったのに。
宮沢賢治の銀河鉄道の夜を思い浮かべ軽く笑みをこぼした。どれほど歩いただろうか、
暫くすると巨大な鳥居が姿を現した。
こんな巨大な鳥居、見たことがない。とにかく多きい。
天井は首を90度上げてやっと見えるかどうかというほどの高さだった。
鳥居の先にイネ=ノが手を伸ばした。
すると、闇に包まれていた鳥居の先に光の鏡のようなものが輝きやきだし吸い込まれるようにイネ=ノがそれに飲まれていく。
繋いだ手を思わず離してしまいそうになり慌てて手を繋ぎなおし僕のその光の中に入り込んだ。
光のカーテンとでも言ったほうがいいのだろうか。
その光の中をくぐった先には今までの星空の世界とは打って変わって真っ直ぐな白い回廊が続いていた。いつの間にか室内に入っていたのだ。
「え?え?!ど…どういうこと?!」
思わずきょろきょろとあたりを見回す。
「今のが入り口になるんだよ。この指輪がないと入れない特別なね。」
そう言いながら僕の手をそっと離す。
ヒノキのような木の香りがした。
白い壁は良く見ると木のような素材で出来ている。
白樺みたい?いや…この世界のことだ。
ヒノキのような香りがする真っ白な木があってもおかしくはない。
僕はイネ=ノの斜め後ろに立って後に続いた。少し歩くと回廊の先に大きな扉が現われる。
細やかな彫刻が施され、鳥や蝶などの彫刻が扉の脇にあった。
「ここだよ」
振り向いて僕に微笑んで見せる。
すると、うさぎの彫刻が一瞬ふわりと光ったと思うと突如動き出した。
「ようこそ、イネ=ノ様」
うさぎはぴょんと跳ねてお辞儀をした。
「うわぁっ!!」