「浮いてるって?」
「この宮殿は空に浮いてるんだ。
だから一般人は中には入れない。
兵士たちも宮殿入り口の門のところまでしか来れないんだよ。」
え?
兵士たちに連れて行かれてみたあの立派な建物が宮殿かと思っていたのだがあれは、ただの門にすぎなかったのか。
「さぁ、食事にしよう。私の部屋においで」
「え?!ここ、イネ=ノの部屋じゃなかったの?」
「違うよ。君の部屋さ」
「…僕の?」
「好きに使って良いから。
何か足りないものとかあったらアキレスに言えばいい。
この部屋の向こうに待機するように言ってある」
「え…あ…。いいの?こんな広い部屋」
「ははは…気を使わなくて良いんだよ。
せっかくなんだからゆっくりするといい。
庭も君専用だよ。好きに散歩してくれてかまわない」
「はぁ…」
驚きのあまり言葉を失う。
さすが宮殿クラスになるとこんな広い部屋を用意するのも簡単なことなんだろうか。
「さぁ、こちらへ」
そういいながらイネ=ノは僕に手を差し出した。
僕はその手をそっと受取る。イネ=ノの手は僕よりも少し温かい。
と、次の瞬間気がつくと僕は別の場所にいた。
今までいた部屋じゃない。
広い温室のような部屋…。
巨大な円形型の部屋の中にたくさんの植物があって噴水からは綺麗な水が溢れ出していた。
壁はガラス張りで夕日の光がきらきらと差し込んでいる。
照明は光るガラスの玉のようなものがあちこちに浮いていた。
村で見た道化師の光る玉を思い出したがそれよりも光り方が自然で優しい。
「ここ…」
「ようこそ、私の部屋へ」
「え?ちょ…ええ?!だって…どうやって?」
すると何も言わずイネ=ノはにこりと微笑むだけだった。
思わずため息をつく。
何が何だか…。
分からないことだらけの世界。
何もかも慣れない。ただただ驚きの連続でしかなかった。
そして、このイネ=ノの部屋も例外ではなかった。たくさんの見たことも無い美しい花がある。
花壇のようなものに植えられているのもあればガラスの球体の花瓶に植えられていて、宙をふわりと浮いていた。
何かで天井から吊っているのではなく本当に浮いてる。
部屋の奥はちょっとした理科室のようになっていて実験道具のようなものが並んでいた。
本棚もある。きっと開くと何か不思議なことが起こるに違いない。
「…すごい」
部屋は花の甘い香りでいっぱいだった。
「イネ=ノは花が好きなの?」
「いや…これは薬に使うんだよ。君の世界でもそうだろ?」
「え?ああ…そうか…」
「ここは僕の仕事部屋なんだけど、憩いの場でもあるかな。
綺麗な花に囲まれていると本当に心が和む」
そういいながらイネ=ノは部屋の中央にあるテーブルにより掛かってみた。
「どう?」
「いや…どうって…すごいとしか…なんていうか、本当に不思議だよ。
花が宙を浮いてるし水の色は宝石みたいに七色に光ってるし…僕の世界じゃありえない…綺麗だ…」
有難うと礼をいうとイネ=ノは椅子に座りながら僕にも座るように促した。
「失礼します」
アキレスが食事を持って現われた。
テーブルにそれらが並べられる。
すごい…どれも見たことの無いものばかり…いや村のテントに並んでいた野菜もあった。
何から何までこの世界では信じられない事や不思議な出来事が次々と起こる。
神々しくも美しい、そんな不思議な世界に僕は迷い込んでしまったのだろうか?
色々と考えたかったがここはとりあえずいただきますと手を合わせてフォークを手に取った。