第七章:神様の僕(3ー2)

本棚の前まで来て止まるとその背表紙を眺める。
ぜんぜん見たことの無い言語だ。
なんて書いてあるのだろう。
一冊手に取った。意外と重い。
テーブルによっこいせと置いてみせるとハードカバーの表紙をめくって見せた。
と、突如本の中から柔らかな光が生まれた。
甘い香りがする。
一体なんなんだ?目を細め光の正体を探すと、本の中でふわりと花が咲いていた。
え?!さらりと優しく風になびきながら花が美しく咲いている。
なんだこれ?!
そっと手に触れてみると紛れもない、本物の花の感触を受けた。
花の下に呪文のような文章がびっしりと現われる。
これは…本物の花に触れられる百科事典?!
なんて不思議な…。
ページをめくるたびに新しい花に触れることができた。
どれも真新しいものばかりかと思いきや意外と道端にさいているのと同じような素朴な花もあったりでかなり楽しい。
じゃあ…他の本もこんな感じなのかな?
楽しくなって花の百科事典を閉じて本棚に戻すといかにも重そうな大きな本を引っ張り出す。
これは何の本だろう。
ページをめくる。
突然本の中から突風が吹き荒れた。
嵐が生まれ豪雨が飛び出し雷の稲妻が光った。
「うわぁっ!!」
慌てて本を閉じた。
しかしときすでに遅く服も髪も、テーブルの周りもびしょぬれである。
あーあ…。
何の本だったのかは分からないがこれはハズレだな…。
そうか…こんな危険な物もあるんだ。気をつけなくちゃいけないな…。
ソファに置いてあったひざ掛けのような布を持ってくるとテーブルと体、そしてその本を拭いて本棚に戻した。
と…一瞬にして水が蒸発するように輝いたかと思うとあっという間に消えてしまった。
なんて凄い…。
思わず息を飲む。
面白いなぁ…いつかみた魔法学校映画の小道具に出てきそうだ。
そうだ…外はどうなっているんだろう。
小走りで窓のほうへ走り寄った。
茜色のガラスの向こう側を覗く。
ん?
巨大な半円形の窓の外にはテラスがあり、その先には美しい花が咲き誇る広大な庭があった。
とにかく広い。
ちょっとした森林公園くらいの広さはあるんじゃないかと思わせるほどだ。
どちらかというより木よりも花がメインであちこちに道がありベンチがあり噴水のようなものもあり…。
昼間明るくなったら散歩してみたいほどに美しかった。
全てが夕日の美しい橙色に染まっている。少しまぶしい。
と、そこまでは理解できるのだが、その庭の先に目線を移動していくと違和感を覚えずにはいられなかった。
庭が船のデッキのように先端がとがった形になっていてその先は夕焼け空が続いていた。
よほど高い場所にこの建物があるのだろうか?それにしても地上が見えない。
ここからでは遠すぎてよく見えないが、まるでこの建物が宙に浮かんでいるようなそんな感覚を覚えた。
いや…もしかして…。
窓をあけベランダに出てみる。
十一月の冬のような冷たい風が吹いていた。
それほど強くは無いがやはり寒い。
この地はもともと気温が低いところなのだろうか…。
ベランダから乗り出してみるがやはり庭の外側を確認する事は出来なかった。
ただ、この寒さだというのに花たちは健気に夕日の光を浴びながら咲き誇るその姿がなんともいとおしく切なかった。
「庭の景色はどうだい?」
後ろで声がしたので振り返った。トレンチコートのようなものを羽織ったイネ=ノが立っていた。

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