そう言ってバイオリンをイネ=ノの前に差し出して見せた。
「いいのかい?」
「はい」
返事をしながらイネ=ノに簡単なバイオリンの構え方を教えた。
「そうです、はい、弓はこう…
手首をもうちょっと内側に向けて…はい、そんな感じです」
「ほほう…これでここをこすればいいんだね」
「はい。」
イネ=ノがバイオリンを構え弓を弦に引っ掛けてみせた、
と次の瞬間、いきなりタイスの瞑想曲を弾きだしたではないか。
たった今、生まれて初めてバイオリンを構えたばかりなのに
いきなり曲を弾けるなんて?!途中まで弾いてイネ=ノは手を止めた。
「なるほど…非常に面白いね」
「……すごい…なんで…」
僕が驚いているとイネ=ノは目を細めて笑って見せた。
「言い忘れてたね。
僕は医術をつかさどっているが音楽もそれなりにね」
とウィンクしてみせた。
イネ=ノはその後、
暫くバイオリンを手に取り斜めにしたり裏側を向けたりしながら眺めていた。
「なるほど…こ
の楽器は多くの人の心を癒してきたんだね。
だからあのような業に力を貸すことができたのかもしれない」
「え?」
「今このバイオリンが教えてくれたよ。
君のお父様やお爺様の事、君がどれだけ一生懸命練習したかもね。」
「そ…そうなんですか…」
すごい…楽器と会話ができてしまうのか…。さすがは神様である。
「ああ…そう言う事か…。」
またイネ=ノはニコニコと笑って見せた。
「イルマ君というんだね?君の友達は」
「え?!そんな事までわかっちゃうんですか!!」
「だからアキレスにあんなに反応していたのか。アキレス!」
そう言って扉のほうに声を掛けた。
すぐに扉が開きアキレスがやってくる。
やっぱり入間と瓜二つだ。
ただ服装がヨーロッパの貴族みたいな立派過ぎるものなのでなんだか入間にしてはかっこよすぎる。
僕の知っている入間よりも少し凛々しい顔付きをしていた。
「お呼びでしょうか、イネ=ノ様」
「ああ、紹介するよ。
彼は僕の弟子のアキレス。
アキレス、こちらは先日話した異世界からのお客様だよ。
射川竹人君。
やはりキク=カが言っていた事は本当のようだ。
アキレス、君のおかげで彼を救うことができた。
改めて感謝するよ。」
イネ=ノの言葉にアキレスは一度軽くお辞儀して見せた。
「はじめまして、タケト様。
私はアキレスと申します。
何か必要なものや困ったことなどございましたら遠慮なく私にお申し付けくださいませ。」