ほかに言葉が見つからなかった。
だってそうだろ?
目の前に半馬人がいたのだ。
しかも、しかもだ、顔をみて一体だれが冷静でいられよう。
僕だ。
僕がいたのだ。
下半身は馬。
だが上半身は人間でその顔が僕そっくりときている。
これが悲鳴をあげずにいられるだろうか?
「フフ…ごめんね。驚いた?」
僕にそっくりな半馬人はにこりと微笑んで見せた。
「そんなところにしゃがんでないでこちらへ出ておいで。
大丈夫。君に危害を加えるつもりはないよ」
穏やかな表情で微笑みながら僕を本棚の裏から出るように促した。
なんだろ、自分の顔した人間、いや半馬人に言われると妙な気分になってしまう。
しかし、見たところ草原でみた半馬人や兵士たちのような凶暴さや敵意などはまったく感じられなかった。
おそるおそる本棚の後ろから出ると促されたソファへそっと腰を下ろした。
「こんな姿じゃ驚くのも無理ないね」
またふわりと彼の体全体に光が生まれたかと思うと次の瞬間、
彼は人の姿に変わっていた。
上半身も下半身も、全てが人間そのものの姿をしている。
はぁ…思わずため息をつく。
本当に一体なんなんだ?テーブルを挟んだ反対側の席に彼も座った。
そしてにこりと微笑む。
「お茶でよかったかな?」
「え?…あ…はい…その…」
お構いなくという言葉をこの後つけるべきかと悩んでいると
それよりも早く顔を上げて少し大きな声で言った。
「アキレス、お茶を」
すると僕の背中のほうから扉が開く音がして誰かがカチャカチャと食器の音をさせながら近づいてきた。
やがてテーブルの前にお茶と果物が並べられた。給仕の顔をそっと見上げ思わず声を上げた。
「入間!!」
先ほど僕を牢屋から助けてくれたその人物、入間が立っていたのだ。
僕の顔をみて入間はまたにこりと微笑んで見せると仕事を終え、また部屋の外へと出て行った。
呼び止めようとしたのだがそれを僕のそっくりさんが手で制してとめた。
「どうやら彼のことが気に入ったみたいだね?」
お茶をどうぞと進められたので仕方が無く
いただきますといって一口カップに口をつけて飲んだ。
!
「おいしい!!」
「お口にあったようで何よりだよ」
いや…しかし…これは…この味は…‼
「カモミールティーだよ」
にこりと微笑んで僕の疑問への答えが述べられた。
驚いて顔を上げる。
「君が持ってきたのとほぼ同じもののはずだよ」
なぜ僕がカモミールティーを持ってきた事をしっているのだろうか?
味はあの少女しか知らないはずなのだが…。
「私の名前はイネ=ノ」
やっとのことで僕のそっくりさんは名前を述べる。
イネ=ノ?
そういえば兵士たちが僕の事を最初そう呼んでいた。
そこで気がつく。
そうか…顔が似てるからこのイネ=ノって人と僕を間違えたんだ…
「君が射川竹人君だね。話は聞いたよ。いろいろと大変だったみたいだね。」
思わず大きくため息をついてしまった。やっとこの世界で僕の見方が現われたような気がしたからだ。
「もう君に危害を加えるやつはいないよ。
ゆっくり肩の力をぬいて大丈夫さ」
イネ=ノはにこりと穏やかな笑みを強めて見せた。
しかし…本当に僕に似ている。
いや、僕そのもののような気がした。
声は僕より気持ち低いような気がしたがそれでもやはり姿かたちは僕そのもののような気がした。
あまりにもじろじろと見すぎたせいかイネ=ノはティーカップを口に運ぶのを止めて僕を優しく見つめた。