洗い立ての洗濯物のような、すごく安心できる優しい香りがした。
寒気はもうなく、体がぽかぽかと暖かく心地よい。
もう悪夢は終わったのだろうか?
まだもう少しこのまま眠っていたいくらいだった。
ああ…今何時だろう。
学校行かなくちゃ。
遅刻しちゃう!
はっ!と我に返り目を見開いた。
そこは大きな、布でできた箱のようだった。
天井にはえんじ色の布地に金色の刺繍が入っている。
小学校のときに天体観測で使った星図版のような模様だ。
横たわった位置から見える三方の側面には綺麗な刺繍の施された明るいベージュ色のカーテンが掛かっていた。**
…ここは…どこだ?
ゆっくりと体を起こし、そこが一つのベッドの上だと知る。
なんて大きな…。
キングサイズなんてもんじゃない。
純白のようなまぶしい白で統一された寝具、それに麻のような淡い色をした、
だが絹のような肌触りのワンピース型のパジャマとズボンを着せられている。
さっきの石牢とは天国と地獄ほどの差があるほど美しい世界だった。
だが、なぜ僕はこんなところに眠っていたのだろうか。
そうだ…入間は?
やっとのことでベットの端までたどり着くとカーテンをめくってみせた。
そこでまたため息が出る。
一体何畳、いやここはどこかのホールなのか?
というくらいにあまりにも広い部屋がそこには広がっていた。
ベルサイユ宮殿のガラスの間のように、とにかく広く壁や天井の装飾も半端ではない。
ガラスの代わりにたくさんの半円形の窓が壁にびっしりと並んでいた。
床にはえんじ色のふかふかのカーペットが敷かれている。
少し離れたところに本棚や書斎机などの家具が置いてテーブルセットもあった。
どれも装飾がどこの貴族のものだと思わせるほど細やかな美しい装飾が施されている。
一体ここはどこなのだろう…。
ふと、少し離れたところにあったクリスタルガラスのようなテーブルに目が留まる。
僕の荷物!!思わず駆け寄った
。クリーニングしてくれたのだろうか?
かつての白さを取り戻した制服、かばん、それにバイオリンケース!!良かった!!
一応中身を確認してみるが間違いなくそこには僕のバイオリンが納められていた。
もう一度、ほっとため息をついた。
ここはどこなんだろう?窓の外に目をやる。
外は明るい。
今は朝だろうか?日差しが柔らかく白い。外に半円形のバルコニーがある、他の窓よりも少し大きい窓を見つけた。
そこから出て外の様子を伺おうかとしたとき、ちょうどその窓に青白い光が差し込んだのだ。
その光はだんだんと強さを増してくる。
何かが来る!
そう直感した。
もう面倒に巻き込まれるのは本当にごめんだった。
慌ててすぐ近くにあった本棚の後ろに隠れると、しゃがんでその様子を静かに見守った。
光は依然と強くなるばかりだ。
とうとう部屋一面をまばゆさで包み込んだ後暫くして窓の扉がそっと開いた。
思わず息を飲む。
ふわりと何かが飛んできたのだ。
とても大きなものだ。
自分の体の倍以上はあるのではないだろうか?空から舞い降りてきたように見えた。
それが床に足をつける。
自ら光っていたそれは次の瞬間から弱まり窓のそとから差し込む太陽の光を背にして立った。
その物体が光っていたのと、朝日の逆光で目がまだくらんでいて一体何が部屋に入ってきたのかはわからない。
その物体は僕の荷物が置かれたテーブルの前まできて止まった。
荷物を眺めているようだ。
やがてクスリと笑い声が漏れたのが聞こえた。
何故笑うのだろう。正体不明のその物体が不気味で仕方が無かった。
と、足音がこちらへと近づいてくる。
やばい!見つかったか?!
しかし逃げ場がない。
どうする?!
身をかがめたまま頭の中ではパニックを起こしている。と、
「やぁ」
頭の上から声が降ってきて、思わず驚く。
恐る恐るぎゅっと閉じていた瞳を開き、顔を上げた。が、次の瞬間僕は悲鳴を上げていた。
「わぁっっっ!!!!」