第六章:医者とバイオリン(3-3)

それはそれで嫌だ。**
だったらとっとと逝かせてくれたほうがましに決まっている。
そもそも僕は嘘はついてないし侵略者でも魔術師でもない。
叩かれたって何も出てこない。
拷問された末の死?!最悪じゃないか…。
滑車の反対側の鎖を若い兵士が少し引っ張る。
「グッ!!」
背伸びして立っているのがやっとの高さまで鎖を持ち上げられた。
「さて…」
兵士は部屋の片隅にあった木造の椅子を引っ張り出して座ると同じく木製の小さな机に肘を付いて見せた。
「私の質問に答えろ。さもなければわかっているだろうな?」
「うぐっ!!ぐぅ…!!」
足が一瞬宙を浮いた。意識が遠のく。
と、次の瞬間兵士が鎖の手を離し床に倒れこんだ。激しく咳き込む。
「まず一つ目。お前はどこから来た」
生徒手帳をめくりながら言った。
いつの間に!兵士は生徒手帳のページをぺらぺらとめくりながら僕の言葉を待った。
とりあえず答えられる事は答えた方がよさそうだ。
でないと、首吊りか運悪くすると首の骨を折られるかもしれない。
軽く咳払いをして頭を起こすと兵士を軽く睨みながら言った。
「日本です。」
「それはお前の国の名前か」
「そうです。」
「ふん、聞いた事もない。でたらめではないだろうな?」
「本当です!」
生徒手帳じゃなくてパスポートでも持っていれば良かったのだろうか?
すると別の兵士が僕の学生かばんを持って現われると机の上に置き、中身を広げて見せた。
中年兵士は教科書やノートをぱらぱらとめくりなかみを確認する。
「お前は一体何者だ。
この書物はなんだ?
見たこともない呪文のようなものがびっしりと書かれているがこれはなんだ?」
そんな…一度に一気に言われても。僕も少しムキになって答えた。
「僕は中学生です。
それは教科書とノート。そこに書かれているのは二次方程式です。」
もうやけだった。
質問には全部素直に答えている。
嘘はついていない。中年兵士はさらに眉間にしわを寄せた。
「おい!」
その合図に若い兵士が鎖を引っ張った。
「ぐうううっ!!!」
また足が宙を浮く。
やばい…本当に…これ…じゃあ…意識がふわりと軽くなるのがわかった。
ガシャン!音を立ててまた床に投げ落とされた。激しく咳きこむ。
「この期に及んで人をからかうとはいい度胸だな。意地でもしゃべらないつもりか?」
椅子から離れ僕の前までつかつかと歩いてくると次の瞬間、僕の頭を思い切り踏みつけた。
「素直に答えれば生かしてやっても良いんだぞ。なぜ本当の事を言わない?」
全部本当のことなのに…でもヘタに歯向かえば…つぎは…
「そう言えば先ほど、親は医術者だとか言っていたな。親の名前はなんだ?」
どうせ答えたところで許しなんかあるものか。
わかってはいたが頭を踏みつける足の圧力が上がったのでしぶしぶ答える
「射川守。」
「イカワマモル?なんだ、その妙な名前は。
やはりこの土地のものではないな。では師匠はだれだ?」
「は?」
師匠?
医療技術を教えた人の具体的な名前などしらないし親の出身校を名乗ったってこの人にとっては答えにならないだろう…
「んん?」
突然中年兵士がひざを付いて僕の手を取った。僕の指輪を見ている。
「…これは…」
みるみる中年兵士の顔が青くなっていくのが見えた。
僕の頭に乗せていた足をどけるとじりじりと後ずさりを始めた。
今度は一体なんだっていうのだろうか。
「魔術師を捕まえたというのは本当か?」
そこへ誰か一人部屋に入ってきたのが中年兵士の肩越しに見えた。
顔を上げてその人物を確認しようとした。
次の瞬間、僕は叫ばずにはいられなかった
「入間!!」

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