手には鎖でできた犬の首輪のようなものを持っていた。
それを僕の首にはめる。
もう、抵抗する力もなかった。
ああ…そうだ。
もうシャットアウトしてもいいんじゃないかと思っていた脳を再度回転させる。
「バイオリンはもう燃やしてしまったんですか?」
何も答えてくれない兵士。
あれは本当に大切なバイオリンだった。
あのバイオリンは祖父から貰い受けたものである。
もっと具体的に言うと祖父が父に譲り、そして父が僕に譲ってくれたもの。
親子3代続く大切なバイオリンだった。
あのバイオリンでどれだけの人を救ったのだろう。
ゆっくりと暗いトンネルのような石の回廊を歩きながら、僕はつぶやくように語りだした。
「僕の祖父も、父も医者なんです。外科医。
これまでにも多くの人の命を救ってきた。
体以上に傷ついた心には、病院で小さなコンサートを開いて音楽の音色で癒してた…。
そんな父の姿が僕は大好きだったんです。
疲れた、だなんて言葉は一度も口にした事がない。
どんなに疲れていてもいつも笑顔でにこにこ患者さんや家族と接してくれた。
だから笑顔の大切さを僕は知っているつもりです。
僕はまだ医者じゃないけれど、いつか父や祖父みたいな医者になりたい…
そう思って今の今まで生きてきたんです。
もちろんあのバイオリンも一緒に…
あのバイオリンと一緒に夢を追いかけたかった…。
…なのに…」
急に頭がかっと熱くなる。
「なのに!!」
体を抵抗して見せるがすぐに引っ張られ首に激痛が走る。
「おとなしくしろ。
何を言っても無駄だ。
見ろ、あそこがお前の死場だ」
回廊の先にまた石の部屋があり天井にはクレーン車を思わせる滑車のついたフックのようなものがあった。**
首輪の先の鎖をそこに引っ掛けようというのだろう。
「待ってください!」
僕は足を止めて抵抗した。
「いい加減にしろ!」
兵が鎖を思い切り引っ張ったが首の痛みをこらえなんとか抵抗する。
「お願いです!最後に一つ!一つだけ!!」
駄々っ子のように体をめちゃくちゃに動かして見せた。
あきれ返った目で見ながら兵士はため息をつく。
「なんだ?」
ちょっとほっとする。
「バイオリンはどこですか?もう燃やしてしまったんですか?」
最後の希望をその一言に託す。
兵士は僕を真っ直ぐに見つめていた。
だがしかし何も答えてはくれない。
そうか…燃やされてしまったのか…。
と、また黄色い歯を見せて兵士が笑った。
「そんなに欲しければ返してやっても良いぞ。」
「え?」
思わず沈んだ顔を上げた。
「だが私の質問に答えてからだ!」
そういいながら首輪をクレーンに引っ掛けた。
な…処刑じゃなかったのか?!
拷問?!