しまった!一番聞いてはいけない質問をしてしまったようだ。
黙り込んでみるみるうちに女の子の表情は沈んでいく。
「ご…ごめん!あ…えと、お茶良かったらもっと飲んで良いよ!」
「本当?!」
女の子は喜んでもう一度水筒に口を付けた。
両親がいないわりに身なりはきちんとしている。
僕のスーツの汚れの方がひどいもんだ。
女の子がお茶を飲んでいる間市場のほうを眺めていた。
相変わらず賑わっていて空が暮れてきたので商品を照らそうとランタンで明かりを付け出したテントもちらほらとある。
そこで面白いものを一つ見つけて目が留まった。
ピエロのような奇抜な格好をした道化師が芸をやっているのだ。
片手に不思議なぼんやりと光る玉があり、もう片方の手に持ち替えたかと思うとそれを宙に浮かせて見せたのだ。
と思った次の瞬間、玉が二つに増え周りの観客らから歓声と拍手があがった。
すごいなぁ…。光る玉はみるみると増え、どれも宙をふわふわと浮きながら漂っている。
一体どんな仕掛けになっているのだろう。
玉と玉同士が光の線で結ばれて何かの形を現した。
なんの形かはわからなかったが、形がそこで止まると観客たちはさらに声をあげてその芸を喜んだ。
道化師がお辞儀をし、どうやら芸はこれで終わりのようだ。
客らが道化師の足元においてある箱の中にコインを投げ入れていた。
「お兄ちゃん、ご馳走さま」
そう言って水筒のお茶を飲み干した女の子がそれを差し出した。
「あ…どういたしまして」
と言った次の瞬間、心の中で叫んだ。
あ!!全部飲まれちゃった!!今になって焦る。
食べ物も買えず唯一の飲み物だったのに…。
だが焦っても後の祭りである。
ん?まてよ?!もしかしたら僕でも出来るんじゃないだろうか?
道化師は片づけを済ませると市場の中へと姿をけしていた。
ここはだめもとでやってみるしか!!
僕が何も言わずにいると女の子が不思議そうに顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「うん。いい案が浮かんだんだ!」
「案?」
「そう!!」
そう言うと僕は早速座り込むと木の脇に立てかけておいたバイオリンケースを引っ張り出し中からバイオリンを出した。
「うわぁ…綺麗!」
女の子の歓声があがる。
「それは何?」
「これはバイオリンっていう楽器だよ」
肩当てをバイオリンにはめ、弦を軽く指ではじいて調弦をする。
大丈夫、音は狂ってないみたいだ。すっくと立ち上がりバイオリンを構えた。
すると、その異変に気がつく。
いつの間にか左手の小指に指輪がはめられていたのだ。
何だこれ?もちろん自分ではめた覚えはない。
いつの間にこんなものが…。
指輪に小さな紫色の石がくっついている。
アメジストのようだ。
演奏に邪魔かもと一度バイオリンを地面にそっと置くと指輪を抜こうとしたのだが…あれ…抜けない。
しっかりと指に食い込んでしまっていてびくともしないのだ。
なんなんだ、これ…。
仕方がない、これは後回しだ。気を取り直しもう一度バイオリンを構える。
「何するの?」
「いまからね、綺麗な音楽を聴かせてあげるよ」
女の子に慣れないウィンクをしてみた。